AIは弁理士の敵か?代替されない知財の仕事とは?

弁理士に代わるAIのイメージ

7月1日は弁理士の日と言うことで、今年も弁理士の企画に参加しないかということでドクガクさんからお声がけ頂きました。

 

今年のテーマは、「知財業界のライバル」

 

何を書こうか散々考えた末、やはり知財業界や弁理士のライバルはAIだろう、ということでそのネタで記事を書きたいと思います。
(すでに散々議論され尽くされた感はありますが・・・)

本稿では、弁理士 vs AI論争を振り返りつつ、将来AI技術が普及したときにどのような知財の仕事が重要になるかを考えてみたいと思います。

 

弁理士 vs AI論争 これまでの流れ

何故知財業界のライバルがAIかというと、昨年末から今年はじめにかけて弁理士がAIに代替される可能性が高いというニュースが話題となったからです。

まずは、この「弁理士 vs AI論争」のこれまでの流れを振り返ってみたいと思います。

 

弁理士のAI代替可能性92.1%に弁理士会が猛反論!

ことの発端は、2015年12月にオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン氏らと野村総研が発表した共同研究報告です。

野村総研のニュースリリース

こちらの研究報告によれば、日本国内の601の職業について、人工知能やロボット等で代替される確率を試算したところ、日本の労働人口の約 49%が代替可能になるという試算が出たとのこと。

 

さらに、2017年9月に日経新聞が上記共同研究において弁理士はAIに代替される可能性が92.1%であると大々的に報じたのです!

 

これに対して、日本弁理士会が、「代替可能性92.1%という数字を算定した根拠には具体性がない」旨の反論を行うという異例の事態になりました。

「AIで弁理士が失業」に異議 「そんなに単純な仕事じゃない」 日本弁理士会の梶副会長

 

弁理士会の副会長、梶 俊和氏は、上記のような数値が出た原因は、弁理士業務への理解度の低さであると主張します。

弁理士業務ではそう簡単にAIが代替できない部分が多く、例えば発明者へのヒアリングしたり、相手の意図を汲んだりするのは、AIでは難しいだろうとのことです。

 

オズボーン論文は分析手法に問題あり?

たしかに弁理士会の主張も納得できますが、実際のところ代替可能性92.1%の信憑性はいかほどのものなのでしょうか?

下記の記事によれば、野村総研の研究報告で採用されたオックスフォード大オズボーン氏の分析手法は、現在ではほとんど否定されており、反証論文も出尽くしている状況とのことです。

「AIが仕事を奪う」への疑問 いま、“本当に怖がるべきこと”は

 

オズボーン氏の手法の問題点の一つとして、オズボーン氏は職業単位での代替可能性を試算したことが挙げられます。

しかし、実際に自動化される対象は職業そのものではなく、タスクの方です。

それなのに、オズボーン氏の論文は職業を構成するタスクに踏み込まず代替可能性を試算しているため、分析の粒度が荒いという批判が多く上がっているようです。

 

短期的にはAIによって弁理士はおいしい思いをする!?

というわけで、上記の話を鑑みると、弁理士・知財業務がすぐさまAIにとって変わられるというのは今の所、杞憂のようです。

むしろ直近の状況だけを見ると、昨今のAIブームは弁理士にとって大きなビジネスチャンスと言えそうです。

何故ならAI技術はすごい勢いで技術開発が進んでおり、その成果を権利化しようと各社の特許出願が活発になると思われるからです。

 

実際、知り合いの弁理士の何人かが言っていたのですが、最近はAI関連の案件の依頼が特に多いと言っていました。

しかも、本来あまりAIと関係なさそうな会社からも、そういった案件が入ってくるんだそうです。

 

そんなわけで、現時点では、AIは弁理士の敵どころか、むしろビジネスチャンスをもたらしてくれる金脈となるかもしれません。

もしかしたら、2000年代前半のビジネスモデル特許ブームの再来になるかも!?



AI時代に重要となる弁理士・知財の仕事とは?

しかしながら、もう少し長いスパンで考えると、今後のAI技術の発展に伴って、弁理士・知財業務を構成するタスクの一部がAIに代替され、仕事のパイが小さくなっていく可能性は十分にありそうです。

過去においても、PCの普及によりタイピストが不要になるなど、テクノロジーの進歩に伴い、無くなったりあるいは変質したりした知財業務はありました。

 

その一方で、AI技術が知財業務に組み込まれることで、よりいっそう重要になる仕事、あるいは新たに創造される仕事もありそうです。

将来を考えると、できれば今のうちからそういった仕事にフォーカスしておいた方が良さそうですね。

では、我々はAI時代の到来に備え、どのような仕事に取り組めばよいのでしょうか?

 

AI時代に求められる能力

まず、一般論としてAI時代に求められる能力とは何かを調べてみました。

総務省が出した「平成28年版情報通信白書」の第4節によれば、人工知能(AI)の活用が一般化する時代に求められる能力として、有識者が特に重要だと考えるものは以下の3つでした。

  • チャレンジ精神や主体性、行動力、洞察力などの人間的資質
  • 企画発想力や創造性
  • コミュニケーション能力やコーチングなどの対人関係能力

また、AI研究の権威である東大の松尾豊氏の著作「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの (角川EPUB選書)」によれば、人間に最後まで残る仕事は以下の2つだそうです。

  • 非常に大局的でサンプル数の少ない、難しい判断を伴う業務
  • 人間に接するインターフェースとしての人間

これらをヒントに、AI時代に重要となりそうな知財の仕事を考えてみました。

 

発明発掘

理由は、発明者から発明を引き出す対人能力、発明をどう捉えるかと言う創造性が求められる仕事であるため。

仮に、明細書を作成するAIツールができたとしても、入り口のところで、こういう発明ですと言うのを形にするのは人間になると思います。

また、発明者が人間であると言う前提が崩れない限り、話を聞くのは機械より人間のほうがいいですよね?

 

交渉

理由は、対人能力が求められ、かつその時々の状況に合わせて難しい判断が求められるため。

例えば、ライセンス交渉や係争時の和解交渉などの交渉業務は価値がありそうです。

交渉は相手が何を狙ってるのかや、何を嫌がっているのかが分からない状況下で進むため、相手の反応を見ながら状況を推測したりと、十分な情報がない中での高度な判断が求められます。

また、社会の主体がAIでなく人間である以上、交渉は人間対人間でやるということは不変だと思います。

 

マネージング、意思決定

組織が人間で構成される以上、それを束ねるマネージャーが必要ですよねと言う理由。

ただの労務管理ではなく、人をモチベートできるか、チーム全体を目標に向かってリードできるかということが重要です。

 

また、社会の主体が人間である以上、いくら業務をAIに流しても、最終的な意思決定は人間がやることになると思います。

例えば、AIツールを駆使して特許分析をやりつつ、採るべき知財戦略を意思決定する、というような仕事は重要であり続けるでしょう。

 

セールス

特許事務所や知財ツールベンダーなどの顧客開拓、CRMをイメージしています。

また、顧客により良いソリューションを提案する、というコンサルティング的なこともできればさらに良し。

人のインターフェースは人と言うことで、企業の意思決定を人間が行う以上、必要な業務であり続けるでしょう。

 

AIを活用したBPR

AI時代の知財業務の中でより重要になるのがBPRだと思います。

BPR(Business Process Re-engineering)とは、業務の流れや組織構成を分析して、最適化するように再構成すること。

 

AI技術の発展に伴い、数々の知財業務向けのAIツールが提供されることになるでしょう。

しかし、オールインワンで知財業務をやってくれるAIツールは当面出てこないと思われ、バラバラの機能を持った複数のツールを組み合わせて使うことになると思われます。

その際に、費用対効果を見ながら、適切にAIツールの導入・運用を行い、知財業務全体を最適化するという仕事は非常に付加価値が出てくると思います。



AI時代、特許事務所は消え知財部は残る?

上記で挙げた仕事の多くは、主に企業の知財部で行われる仕事です。

では、特許事務所(弁理士)の本来的業務である、特許明細書の作成などの書面作成業務はどうでしょうか?

 

もちろん明細書作成や中間処理等の書面作成業務が全くなくなるわけではないと思いますが、徐々にAIで代替可能な部分が増え、トータルの業務量や単価は減少する方向になると思われます。

日本語を英語に翻訳したり、ドキュメントの書式を整えたり、過去の出願を参考に実施例を肉付けしたりする位であれば、すでに今のAI技術でもある程度はできそうですよね。

 

一方で、発明発掘や特許出願戦略の策定などの、本来企業側で行っていた仕事のアウトソース先としてのニーズがより高まり、書面作成業務に対するそれらの業務割合が増えて行くのではないかと思います。

いずれにしても、特許「事務」所の名前通りのことをやっているだけでは、早晩立ち行かなくなるでしょう。

 

将来的にこの傾向が顕著になれば、特許事務所と企業の知財部のやってる仕事は限りなく近づいていくと思います。

そうすると、従来的な書面作成業務をメインで行うような特許事務所は消え、企業の知財部と、知財部の中核業務のアウトソース先としての新しいタイプの特許事務所だけが残る、という未来がやってくるかもしれません。

 

AI技術が今後どのように発展するのか、それによりAIが我々の敵として立ちはだかるのかは、まだまだ未知数な部分が多いですが、上で挙げたような仕事を意識しつつ今からできることを準備しておこうと思います。

 

なお、「弁理士に将来性はあるのか?今後を左右する要因とは?」という記事で、AI以外の観点も考慮して弁理士の将来性について考えてみたので、こちらもぜひご覧ください!

 

また、当ブログで過去の弁理士の日の企画に参加したときの記事は下記になります!