なぜ、日本の知財は儲からない

公開日: : 最終更新日:2014/08/19 書評(知財本), 知財ビジネス , , ,

ヘンリー幸田氏の「なぜ、日本の知財は儲からない」をようやく読み終えましたので、内容をご紹介したいと思います。

内容に若干の癖がありつつも、トピックが豊富でとても面白く読めました!

 

特許戦略の話と思ったら・・・歴史?!

本書では、プロローグの後、おもむろに歴史の話が始まります。
本書のタイトルからすると知財戦略の話がメインという印象があるので、いきなり読者の多くは戸惑うでしょう。

古くは紀元前6世紀のギリシアで専売権があったという話に始まり、ベネチア共和国で制定された特許条例、英国の専売条例、米国特許法の変遷、日本の知財制度の変遷と、特許に関する歴史を一通り振り返ります。
(実は本書の約半分はここで費やされます(笑))

突飛な印象を与えますが、しかしながら、これは特許の本質を理解する上で重要なことなのです。

 

米国の知財ビジネス

本書の半ばから、ようやく、米国の知財ビジネスの話が始まります。
まず、米国企業の特許戦略として、IBMのパテントポートフォリオ戦略が紹介されます。
パテントポートフォリオ(PPF)戦略とは、下記のようなものになります。

  • 高利益商品を厳選し、その分野の権利を集中的に取得する(重複した権利を取得することの許容)。
  • 複数の特許(20 – 25件が理想)による権利行使。
  • FRAND (Fair Reasonable and Non-Discriminatory)方式のライセンスにより、訴訟を回避しつつライセンス交渉を手早くまとめる。

筆者は、PPF戦略は一定以上の規模の企業にとって極めて有効な戦略だと考えているようで、本書で繰り返し有用性が述べられています。

さらに、米国における知財ビジネスとして類型がまとめられています。

  • パテントマフィア: レメルソンなどの個人発明家
  • パテントトロール: パテントマフィアに比べ、より組織化された。アカシア、ラウンドロックなど。
  • パテントオークション: 定期的に特許のライブオークションを開催。オーシャン・トモなど。
  • パテントブローカー: 特許の売買を仲介する。
  • 防御型パテントアグリゲーター: RPXなど。
  • 攻撃型パテントアグリゲーター: インテレクチュアル・ベンチャーズなど。
  • 知財信託: IPXIなど。

ニュースではパテントトロールと一言で片付けられてしまうのですが、実は様々な形態があるのだということに気付かされます。

 

日本の課題って?

さらに、本書では、日本の抱える知財の課題と取るべき指針について述べられています。

まず、日本企業の弱点としては、米国における訴訟に長けてないことが挙げられています。
日本企業は訴訟を嫌う傾向にあったため法廷闘争に不慣れであり、さらに米国訴訟ではディスカバリーや陪審制度など独特の制度があり、言語的なハンディキャップもあるためです。

また、日本企業の特許戦略は依然防衛的で、知財の十分な活用が行われていないことが指摘されています。

そこで、PPF戦略などを駆使する攻撃型の知財戦略に転換することが提言されています。
日本企業は、潜在的には米国に次ぐ知財力を保有しているので、これを活用しない手はないと。

日本の司法についても課題が述べられています。
日本の特許訴訟では、原告(特許権者)の勝訴率が低く、且つ損害賠償額も低く設定される傾向にあり、そのため、訴訟件数が先進国の中でも極端に少なくなっています。
知財立国実現のためには、ここらへんの課題に取り組む必要がありそうです。

 

最後に

というわけで、本書は、特許制度の歴史に始まり、米国企業の特許戦略、知財ビジネス、国家的な知財戦略への提言など幅広いトピックをカバーしております。

歴史の部分は、筆者が興味のあるところらしくの相当に筆が乗っており、読み物として非常に面白かったです。
何かの機会にこういう薀蓄を語れるようになれたらかっこいいだろうなぁと思ったり。

知財戦略については、企業ごとにどの事業分野に対して集中的な権利取得を行うのか、そもそもPPF戦略が適切なのかについては、企業ごとに考える必要があります。
そもそも、ほとんどの大手企業ではすでにPPF戦略を取り入れていると思われ、さらなる工夫が必要なように思われます。

オープンクローズ戦略にしても、ビジネスモデルに左右されるところがあり、実行可能な企業はかなり限られる気がします。
やはり、ベストな知財戦略は何かということは、ここらへんの戦略を参考に企業自身が考えるしかないですね。

なお、知財戦略や知財ビジネスについては、「インビジブル・エッジ」という本でかなり詳細に紹介されていますので、こちらも併せて読むと理解が深まるのではないかと思います。

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Comment

  1. futureeye より:

    「PPF+係属中の分割出願」戦略が攻撃型の知財戦略に最も有効と考えます。
    係属中の分割出願は、いうなれば変幻自在に照準を変更できる遊撃ミサイルのようなものです。交渉や侵害裁判中の相手の主張(イ号の特定等)に応じて狙い撃ちしたクレーム(照準)に変更することにより、強力な武器となります。

  2. UME より:

    futureeyeさん

    コメントありがとうございます!

    重要特許の分割出願を残して、他社の実施態様に合わせてクレームを調整するのは、実際よく使われている手法ですね。

    PPF戦略と合わせると、非常に強力そうです。

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