普段やっている業務を一段深くしたり、経験があまり無い分野を扱ったりする際には、書籍からの情報収集が欠かせません。
私は新卒で企業の知財部に入って以来、10年近く知財の仕事をしており、特許実務に関する本はかなり読みました。
やはり、
仕事で分からないところが出てくる→ 本で勉強する→ 得た知識を実務に応用する
という流れで、実務能力がついてきたと思います。
というわけでこの記事では、企業の知財担当者である私が、これまで数多く読んできた本の中で「これは!」と思った特許実務に使えるおすすめの本をご紹介します!
以下の本をご紹介します。
書籍名 | 概要 |
知財実務のツボとコツがゼッタイにわかる本 |
特許出願や権利化、係争などの実務上よく遭遇する場面について一通りの知識が得られる。Q&A形式で分かりやすい |
標準 特許法 |
特許法の法的論点がコンパクトにまとまっており、法律書にしては比較的読みやすい |
新・拒絶理由通知との対話 |
元特許庁審査官が執筆しており、審査官の立場から拒絶理由通知にどう対応すべきかが学べる |
AI/IoT特許入門3 |
AI/IoT特許について、豊富な事例を紹介されており、こうした技術の権利化に不慣れな場合に参考になる |
FinTech特許入門 |
上記のFinTech、ブロックチェーン技術版 |
米国特許プラクティカルガイド |
日本の特許制度と比較した米国特許制度の特徴が意識されて書かれているため、米国特許実務の勘所がわかりやすい |
アメリカ特許法実務ハンドブック |
米国における特許出願、OA対応などの各段階についてかなり詳細に解説してある |
グローバル企業の知財戦略 |
訴訟への準備・情報収集から、裁判地の選定、専門家の活用法まで、訴訟対応に必要な実務知識が詳しく解説されている |
特許情報調査と検索テクニック入門 |
特許調査における検索式の立て方、特許分類記号の解説などが書かれており、調査経験者も得られるものが大きい |
技術法務のススメ |
技術契約(共同開発契約やライセンス契約など)にフォーカスして、企業が留意すべき点が解説されている |
ライセンス契約書作成のポイント |
知財実施許諾の典型契約の解説などがコンパクト且つわかりやすくまとまっている |
ロイヤルティ料率データハンドブック |
技術分野ごとの標準的な実施料率が載っており、ライセンス料算定の際などに役に立つ |
特許出願や権利化実務に役立つ本
まず、特許実務の基本となる、特許出願や権利化実務に関する本です。
知財実務のツボとコツがゼッタイにわかる本
基礎的な特許実務にオールインワン的に参考になるのが、「知財実務のツボとコツがゼッタイにわかる本」です。
本書は、特許出願や権利化、係争などの実務上よく遭遇する場面について、Q&A形式で分かりやすく解説しています。
本書で特徴的なのが、
- 会社の立ち上げ
- 企画
- 開発
- 販売
- 事業提携
といったビジネスの段階ごとに知財上の留意点がまとめられているところ。
そのため、スタートアップ等の比較的小さい会社の知財担当の人が、一通りの知財の知識を身に付けるのにも適しています。
何か困ったことが有ればとりあえず本書にざっと目を通して、関連するトピックを参照すると良いでしょう。
>> 「知財実務のツボとコツがゼッタイにわかる本」の商品ページ
標準特許法
特許実務において、たまに法律的な解釈が必要となるイレギュラー案件が発生するときがあります。
そんなときは、特許法の解釈や関連する判例を確認するために、基本書と呼ばれる法律書で調べ物をすることになります。
特許法の基本書は色々ありますが、「標準特許法」は必要な内容がコンパクトにまとまっており、且つ法律書にしては比較的読みやすいのでおすすめです。
本書では、特許法の論点が網羅的におさえられており、注目される判例も多数取り入れられています。
法改正に対応した改定も頻繁になされているのも心強いポイント!
特許法の基本書を揃えるとすれば本書が最適ですね。
拒絶理由通知との対話
特許出願には拒絶理由通知がつきもの。
拒絶理由通知に対して、いかにうまく対応できるかで、良い権利の特許が取得できるといっても過言ではありません。
本書「拒絶理由通知との対話」は、元特許庁審査官の方が、拒絶理由通知への対応方法を分かりやすく書いた本です。
審査官がどういう気持ちで拒絶理由通知を出してくるのかや、どういった対応をすれば効果的なのかが勉強になる一冊です。
AI/IoT特許入門
こういったAIやIoT発明を権利化する際に参考になるのが、河野 英仁氏の「AI/IoT特許入門3」です。
今やAI/IoT技術は、IT企業に限らずどこの企業でも検討しており、
今までソフトウェア発明をほとんど扱った経験が無いのに、AIやIoTに絡む発明を担当することになった…
ということもあるでしょう。
本書は、AI/IoT特許について、豊富な事例を紹介しているので、こういった発明が出てきたときの取っ掛かりになります。
さらに、クレームの書き方や中間処理の対応方法など、知っておきたい点がまとまっています。
なお、同じ著者の書籍として、FinTechに関する本もあるので、実務でFinTech発明を扱う場合は、こちらもどうぞ。
外国特許実務に使える本
やはり特許業務では、外国における特許出願などの実務と切っても切り離せません。
ここでは、外国特許実務に使える本を挙げます。
米国特許プラクティカルガイド
「米国特許プラクティカルガイド」は、米国特許制度の全体像や実務的なポイントがわかりやすく書かれた本です。
著者の小西 恵氏は、元IBMのSEで、弁理士を取得して特許事務所で勤務した後、ワシントンDCの法律事務所での実務経験があります。
日本の特許実務から見たときの、米国特許制度の特徴が意識されて書かれているため、米国特許実務の勘所がわかりやすいです。
専門書にしては、値段が比較的お手頃なのもうれしいところ!
アメリカ特許法業務ハンドブック
米国の特許権利化の実務において非常に参考になるのが、高岡 亮一氏の「アメリカ特許法実務ハンドブック」です。
米国における特許出願、OA対応などの各段階についてかなり詳細に解説があります。
全体的にボリュームがあるため、辞書的に使うのがおすすめ。
特に、米国の特許権利化を担当する人なら、座右の書として置いておきたい一冊です。
グローバル企業の知財戦略
海外でビジネスをする上で特に注意すべきなのが、米国の特許リスクです。
米国では、
- ディスカバリーや陪審制度等の複雑な訴訟制度
- 高額な損害賠償
- パテントトロールの存在
など、他国とは比較にならないくらい特許上のリスクが存在しており、実務家としては米国での特許係争に備えておかなければなりません。
本書「グローバル企業の知財戦略」では、タイトルの通り、米国における特許訴訟における実務上のポイントがわかりやすく解説されています。
著者は、シュグルー(Sughrue)の弁護士である岸本 芳也氏。シュグルーは数多くの日系企業を代理している米国の有名な法律事務所ですね。
本書では、訴訟への準備・情報収集から、裁判地の選定、専門家の活用法まで、訴訟対応に必要な実務知識が詳しく解説されており、米国での係争を担当している方におすすめです。
特許検索・分析に役立つ本
特許情報調査と検索テクニック入門
特許実務において、先行文献調査や特許クリアランス調査などの目的で、特許検索を行う場面がかなりあります。
特許調査の知識を身に付けるのに最適なのが、「特許情報調査と検索テクニック入門」です。
本書は、特許分類記号の解説や具体的な技術分野についての検索式作成事例といった、特許調査を行う上で知っておきたい知識が網羅されています。
表題には「入門」と付いていますが、高度且つマニアックな(笑)知識も随所に登場します。
初心者はもちろん、特許調査の実務経験がそれなりにある人も本書から得られるものは多いでしょう。
特許ライセンスや契約の実務に役立つ本
技術契約のススメ
知財の契約を扱うのであれば、「技術法務のススメ 事業戦略から考える知財・契約プラクティス」はかなりおすすめです。
著者は、下町ロケットの神谷弁護士のモデルとなったことでお馴染みの、鮫島 正洋氏。
本書では、技術契約(共同開発契約やライセンス契約など)をむすぶにあたり、企業としてどういった点に留意して契約書を作成すれば良いのかが書かれています。
私は元々特許権利化を専門にやっていたのですが、契約の知識が手薄だったので、本書で勉強しました。
技術系の企業が、契約においてどんな点を注意すべきかがわかりやすく書かれており、勉強になります。
ライセンス契約書作成のポイント
ライセンス契約書の具体的な書き方について勉強したいなら、「ライセンス契約書作成のポイント」が役に立ちます。
本書はTMIの弁護士が執筆しており、ライセンス契約の基本的な考え方から、知財実施許諾の典型契約の解説など、コンパクトながらしっかりまとまっています。
法務担当者や実際に交渉を行う現場担当者も想定読者としているため、平易な言葉でわかりやすく書かれているのも特徴です。
会社に契約書のひな形がある場合でも、各条項がどういう役割を果たしているのかを知ることができ、ライセンス契約書について一段深い知識が身に付きます。
実務で契約書の起案や修正を行うのであれば、ぜひ本書を読んでおくと良いでしょう。
ロイヤルティ料率データハンドブック
特許ライセンスにおいて、ライセンス料を算定する際に、実施料率をどう設定するかがポイントになります。
本書「ロイヤルティ料率データハンドブック」は技術分野ごとの標準的な実施料率を調べるのに適しています。
平成21年に経済産業省が行った調査をもとに、権利種別(特許、商標、プログラム著作権、技術ノウハウ)ごとのロイヤルティ料率の平均値、最高値、最低値等が掲載されています。
また、契約だけでなく、知財の侵害訴訟の判決文においても、本書のデータが損害賠償額の算定根拠として使われていたりするので、実務上の重要性は高いです。
題名の通り、実施料率についてのデータがメインなので、必要なときに参照するという使い方になるでしょう。
その他
ここからはおまけ。
実務に役立つかは微妙ですが、「人によっては参考になるかも?」という本を挙げておきます。
雲を掴め・雲の果てに
知財交渉の様子が生々しく描かれた小説としておすすめなのが、「雲を掴め―富士通・IBM秘密交渉」です。
本書は、その昔、富士通がIBMの互換コンピュータを製造しようとした際の、IBMとのハードな交渉をつぶさに描いた作品。
IBMの巧みな交渉術や富士通の中で交わされる緊迫したやり取りなど、実際に交渉に携わる人間には参考になるところが多々あります。
知られざる特殊特許の世界
特許実務に役立つかと言われると微妙なんですが、「知られざる特殊特許の世界」は特許に関するネタを仕込むのに最適な一冊です。
こちらの本は、「特殊特許」と言われる、発明の内容がぶっ飛んでいたり、出願人がすごかったりする特許を紹介しています。
単に特許を紹介するだけでなく、著者が特許出願に至った背景を丹念に調査し、ときには出願人に直接インタビューするなど、読み物として非常に面白いです!
もしかしたら、社内の特許研修などのネタとして使えるかも?(笑)
まとめ
というわけで、私がおすすめする特許実務に使える本をご紹介しました!
ご紹介した本を再掲します。
書籍名 | 概要 |
知財実務のツボとコツがゼッタイにわかる本 |
特許出願や権利化、係争などの実務上よく遭遇する場面について一通りの知識が得られる。Q&A形式で分かりやすい |
標準 特許法 |
特許法の法的論点がコンパクトにまとまっており、法律書にしては比較的読みやすい |
新・拒絶理由通知との対話 |
元特許庁審査官が執筆しており、審査官の立場から拒絶理由通知にどう対応すべきかが学べる |
AI/IoT特許入門3 |
AI/IoT特許について、豊富な事例を紹介されており、こうした技術の権利化に不慣れな場合に参考になる |
FinTech特許入門 |
上記のFinTech、ブロックチェーン技術版 |
米国特許プラクティカルガイド |
日本の特許制度と比較した米国特許制度の特徴が意識されて書かれているため、米国特許実務の勘所がわかりやすい |
アメリカ特許法実務ハンドブック |
米国における特許出願、OA対応などの各段階についてかなり詳細に解説してある |
グローバル企業の知財戦略 |
米国における特許訴訟への準備・情報収集から、裁判地の選定、専門家の活用法まで、訴訟対応に必要な実務知識が詳しく解説されている |
特許情報調査と検索テクニック入門 |
特許調査における検索式の立て方、特許分類記号の解説などが書かれており、調査経験者も得られるものが大きい |
技術法務のススメ |
技術契約(共同開発契約やライセンス契約など)にフォーカスして、企業が留意すべき点が解説されている |
ライセンス契約書作成のポイント |
知財実施許諾の典型契約の解説などがコンパクト且つわかりやすくまとまっている |
ロイヤルティ料率データハンドブック |
特許ライセンスにおける技術分野ごとの標準的な実施料率が載っており、ライセンス料算定の際などに役に立つ |
色々紹介しましたが、まずは、実務で関係しそうな内容の本からあたってみることをおすすめします。
ご参考になれば幸いです!
知財戦略に関する本
日々の業務では目の前のタスクをこなすことに意識がいきがちですが、時には一歩引いて会社全体の知財を俯瞰することも必要。
知財戦略の知識があることで、実務担当者としてより深みがある仕事ができるようになります。
知財戦略が学べる本については下記の記事でまとめています。
知財戦略の本には定番があり、私が過去に読んだ本の中から「これは!」と思うおすすめの本を紹介していますので、こちらもぜひ!
知財戦略が学べる本はこれだ!担当者のおすすめ7選商標実務に使える本
商標関連の実務でおすすめの本については下記の記事でまとめています。
私は元々特許専門でやっていたのですが、転職してから商標も扱うことになり、その過程で知った商標実務の本について紹介しています。
商標の実務に使える本10選【おすすめをご紹介!】