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久々に特許関係の書籍を読んだのでご紹介します。
「ビジネスモデル特許戦略」です。
本書は、以前に読んだ「インビジブル・エッジ」という本に紹介されており、それがきっかけで購入しました。
(そして、しばらく本棚で眠っていました・・・)
本書の原書が出版されたのが1999年(邦訳版は2000年)なので、結構昔の本になりますが、取り上げられている事例が若干古いという以外は、今読んでもそれほど違和感がありません。
本書の概要
本書は、ビジネスにおいて特許について考えることが不可欠となってきているという点を、様々な事例やデータを交えつつ繰り返し強調しています。
内容としては、以下の様なことが書いてあります。
- 特許ポートフォリオの構築、管理による競争優位性の確保
- 自社他社の特許分析で研究開発戦略を策定する手法
- テキサス・インスツルメンツ社などの倒産の危機に直面した企業が、特許ライセンス活動により倒産を回避した事例
- ウォーカーデジタル社、BTG社、インターデジタル社など、自社の事業はほとんど行わず特許ライセンスで収益を得る企業の事例
- M&Aで他社の魅力的な特許ポートフォリオを取得すること
- 企業売却の際に特許群の価値が売却価格を上昇させること
- インターネットビジネスでビジネスモデル特許によりビジネスを保護することの意義
このような話は今読んでも違和感があまりありませんね。
本書が出版された頃(2000年頃)の日本ではあまり知財が認識されていなかったことを考えると、本書が当時としては相当進んだことを述べていると思います。
特に、特許とは法務部や弁護士にやらせておけば良いというものではなく、経営層がしっかり関わって経営ツールとして活用していくものだということを再三強調している点が画期的ではないかと思いますね。
オープンソース
個人的に本書で良かった点は、オープンソースと特許の関係について述べられていることです。
私が知るかぎりでは、特許関係の本でオープンソースについて書いてあるものがあまり無く、その意味で本書は貴重だと思います。
ソフトウェアの世界においてオープンソースが果たしている貢献や世の中への影響というのは重大なものがあります。
オープンソースにすることで、世界中のプログラマが開発に参加することができるため、時として企業を凌ぐものが出来上がります。
本書でも、マイクロソフトが、スピードや品質の点で自社のOSよりもリナックスが優れていると認めたことが紹介されています。
一方で、多くの場合オープンソースソフトウェア(OSS)の開発において特許クリアランスを行うことは無いので、OSSが他社の特許を侵害するかもしれないという危険が常につきまといます。
これが、OSSを取り入れる際の最大のリスクになります。
実際にOSSが特許侵害で訴えられた事例として、インターネットブラウザの開発にオープンソースを取り入れていたネットスケープ社がグローバル・ワン社に訴えられた事例が紹介されています。
これに対して、オープンソースコミュニティのプログラマたちは激怒しました。
世界中のプログラマが団結してマン社の特許の無効資料を探し出し、結果的に、見事ワン社の特許を無効にすることができたそうです。
このように、オープンソースと特許というのは相対するもので、両者は敵対的な文脈で語られることが多いです。
実際、プログラマの多くは特許制度を嫌悪していると聞きます。
一方で、技術を完全にオープンにしてしまえば、企業がビジネス上の優位性を確保することが困難となり、ビジネスの成功がおぼつかなくなります。
オープンソースと特許のバランスをどう取るかというのが、ソフトウェア開発やインターネットビジネスをやっている企業にとって、非常に大きな課題だと思います。
最後に
失礼ながら、本書を読み始める前までは、この本の内容についてそれほど期待していませんでした。
「ビジネスモデル特許戦略」という題名から、ビジネスモデル特許ブームに乗かっただけの中身の無い本、という軽薄な印象を受けたからです。
しかしながら、上述の通り、本書は別にビジネスモデル特許に限定されたものではなく、至極まっとうな特許戦略について書いた本であり、その意味で当初の予想を裏切られました。
ちなみに、本書の原題は”Rembrandts in the attic” (屋根裏部屋のレンブラント)で、貴重な財産(すなわち特許)がその価値を見い出されずにほこりにまみれて死蔵されている、という意味が込められたものだそうです。
このタイトルだと、「企業で眠っている特許の価値を再認識してビジネスに役立てよう!」という本書の主張とマッチしたよいタイトルですね。
しかしながら、翻訳で上記のようなタイトルをつけられてしまったがために、今となっては非常に損をしているなぁと思います。
まあ、当時、ビジネスモデル特許がブームになっていた時代なので、広告効果を考えると致し方無かったのかもしれませんが・・・。
あと、内容的に難がある点として、多少、特許の効果を煽り気味に書いていたり、特許分析ツールを過剰に評価していたりするところがあるなと思いました。
まあ、そこら辺を差し引いても、今なお読む価値がある本だと思います。
amazonの中古だとかなり安くなっているので、是非目を通してみてはいかがでしょうか?
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