ニュースを見ていると、「どこそこの企業がパテントトロールに訴えられた」みたいな記事を目にすることがあると思います。
パテントトロールというと、特許を使って企業をイジメる悪者みたいなイメージがありますが、実際のところどんな組織なのでしょうか?
この記事では、パテントトロールがどういうものなのかについて、わかりやすく解説します!
本記事の内容
パテントトロールとは?
パテントトロールという言葉の意味や、言葉の由来、ビジネスモデル、その他の表現(NPE, PAE)について説明します。
パテントトロールの定義
パテントトロールという言葉に特に明確な定義はないのですが、一般的には、下記の条件を満たす組織のことです。
- 製造や販売を行わず、自らは特許を実施しない
- (主に他者から購入した)特許を使って企業に警告や訴訟提起を行うことで、ライセンス料や和解金を得る
世間一般ではもっと平たく、
特許を使って企業から金を巻き上げる(けしからん)集団
くらいの意味で使われていると思います。
パテントトロールの言葉の由来
パテントトロールという言葉は、
1990年代に、インテル社がテック・サーチ社というパテントトロールの走りに特許侵害訴訟を起こされた際に、当時インテルの副法務部長だったピーター・デトキン氏の発言に由来する
と言われています。
(なお、皮肉なことに、デトキン氏は後に、パテントトロールの一種であるIntellectual Venturesの創業メンバーに名を連ねることになります)
パテントトロールのその他の呼び方(NPE, PAE, PME)
知財の専門家の間では、パテントトロールを指す言葉として、NPEやPAEといった表現が使われます。
NPE(Non Practicing Entity)は、不実施主体と言う意味で、パテントトロールの「実際に事業は行っていない」という側面を捉えた表現になっています。
この定義だと、大学などの研究機関であったり、クアルコムのような研究開発に特化した企業も含む定義になりますね。
PAE(Patent Assertion Entity)は、特許主張主体と訳すことができ、パテントトロールの特許を使った攻撃的な側面を強調する表現だといえます。
どちらかというと、NPEのほうが世間的にはメジャーなので、あえてPAEという言葉を使うことで「私、特許のことわかってますよ」的な雰囲気を出せます(笑)
その他、最近では、 PME(Patent Monetizing Entities)という表現もあるそうですが、こちらの表現はあまり知られていません。
なんか色々言い回しがあってめんどくさいので、個人的には、「パテントトロール」で統一すればいいじゃんと思いますが、ダメですかね・・・?
パテントトロールのビジネスモデル
多くのパテントトロールは、ファンド形式で構成されるそうです。
ファンド形式で投資家から資金調達をし、市場に流通する特許(主に倒産や業績不振によって企業が手放すことになった特許)を買い集めます。
パテントトロールが好んで買い集めるのが、いわゆる標準特許(SEP: Standard Essential Patent)というものでして、これは、技術標準として様々な企業の製品に組み込まれている技術をカバーする特許のことです。
このような特許は、多くの企業の製品で使われており、且つ侵害発見・立証も容易であるため、効率良く資金回収(つまり企業からお金を取れる)ができます。
パテントトロールは上記のようなファンド形式の他に、「死蔵特許―技術経営における新たな脅威」という本で紹介される、フォージェント社ように、元々普通の事業会社が経営不振などを理由にトロール化するケースもあります。
(フォージェント社は、画像圧縮技術であるJPEGの基本特許を使って、ソニーや三洋電機などからライセンス料を徴収したことで知られます)
有名なパテントトロール
パテントトロールは、規模の小さい有象無象から、大規模に組織された上場企業まで、数多く存在します。
ここでは、以下の有名なパテントトロールをご紹介します。
- Acacia Technologies(アカシア・テクノロジーズ)
- Intellectual Ventures(インテレクチュアル・ベンチャーズ)
- Round Rock Research(ランドロック・リサーチ)
- Interdigital(インターデジタル)
- NTP
Acacia Technologies
Acacia Technologies(アカシア・テクノロジーズ)は非常に有名なパテントトロールで、最も効率良く組織されたパテントトロールであると言われます。
アメリカのNASDAQに上場している、れっきとした上場企業です。(ティッカーシンボルはACTG)
Acaciaは、SPE(Special Purpose Entity)と言われる子会社を設立し、子会社に特許を譲渡してライセンシング活動を行わせるというスタイルをとっています。
Intellectual Ventures
Intellectual Ventures(インテレクチュアル・ベンチャーズ)は、マイクロソフトの技術責任者であった、ネイサンミアボルト氏が立ち上げた組織。
設立当初は、同社が行う知財ファンド的な活動が、新しいかたちの知財ビジネスとして注目を集めましたが(詳細は「知財の利回り」という本に詳しいです)、後にパテントトロール的な活動をするようになります。
Round Rock Research
Round Rock Research(ランドロック・リサーチ)は、「なぜ、日本の知財は儲からない」という本によれば、今一番注目のパテントトロールだそうです。
同社のホームページには、アップル、Google、ソニー、Sumsungといった、そうそうたるメンバーにライセンスしていることが記されています。
また、ラウンドロックは、RFID技術についての強力な特許ポートフォリオをもっており、2013年には、RFIDの主要ベンダーと特許ライセンス契約を結んだことがニュースになっています。
Interdigital
Interdigital(インターデジタル)は、非常によく知られたパテントトロールですが、会社の設立は1972年と、実は意外と歴史のある会社です。
NASDAQに上場しており、ティッカーシンボルはIDCC。
インターデジタルは、ワイヤレス通信技術に強みをもっており、同社の特許ポートフォリオには、3Gや4G/LTEに関わる特許が含まれます。
これらの通信技術について、アップルやサムスンをはじめとする世界的なスマートフォンメーカーが同社とライセンス契約を結んでいます。
NTP
NTPがブラックベリーを製造していたRIM社に対して起した特許侵害訴訟はあまりに有名。
最終的に、NTPはRIM社から約6億ドルの和解金を得たと言われます。
日本にパテントトロールはいるの?
基本的に、パテントトロールはアメリカのイメージがありますが、日本においてパテントトロールが存在するのでしょうか?
パテントトロールは、アメリカにおける複雑な裁判システムや高額な損害賠償額といった性質を利用(悪用)している存在であり、日本などのアメリカ以外の国ではビジネスが成功しにくいと言えます。
そのため、日本国内においては、パテントトロール的な存在はとんど見られません。
強いてあげるとすれば、日本政府の資本が入っているIP Bridgeは特許のライセンシング活動をしています。(トロールというと語弊があるかもしれませんが)