弁理士は国家資格の中でも最難関と言われるほど取得するのが難しい資格。
では、そんな弁理士は実際のところ、どんな仕事をしているのでしょうか?
弁理士といえば、特許出願の代理をするのが主な仕事になりますが、実はそれ以外にも色々あります。
この記事では、弁理士の仕事内容について紹介します!
なお、本記事では主に特許事務所における弁理士の仕事を紹介します。
企業知財部における弁理士の仕事内容については、下記の記事をご参照ください。
知財部の仕事内容は?|ある担当者の一日を紹介します〜本記事の内容
弁理士の仕事は所属組織によって結構異なる
まず、弁理士の仕事と一口に言っても、実は所属する組織によって結構変わってきます。
弁理士の会員分布状況によると、
- 弁理士の8割近くは特許事務所に勤務、あるいは自分で特許事務所を経営している
- 弁理士の約2割は企業に勤務(主に企業の知財部門に所属)
となっており、特許事務所で働く場合と、企業で働く場合とで、大きく2つのパターンに分かれます。
どちらも、知財の仕事をすることには変わりないのですが、その性質は結構異なるものだと思っています。
ざっくり言うと、特許事務所では特許明細書の作成や拒絶理由通知対応などの書面作成業務にフォーカスした仕事になります。
一方で、企業知財では発明発掘や戦略、ライセンス、係争対応など、知財に関して幅広く仕事をする傾向があります。
(詳しくは、「特許事務所と企業知財部の業務は何が違うの?」参照)
特許事務所の弁理士の仕事内容
ここでは、多数派である特許事務所での仕事をメインに紹介していきます!
特許事務所における弁理士の仕事を一言でいうと、
クライアントの知財手続きの代理をすること
です。
「知財手続きの代理」というのは、クライアントの求めに応じて、例えば、特許明細書を作成して特許庁に出願したり、特許を登録するために特許庁とやり取りをしたりすることです。(詳細は後述)
なお、弁理士法という法律において、「弁理士以外の者は知財手続きの代理をやってはいけない」と規定されており、特許事務所での仕事は、まさに弁理士資格を活かした仕事であると言えるでしょう。
特許事務所における弁理士の仕事は、具体的には、以下のようなものがあります。
- 国内特許出願(明細書の作成)
- 外国特許出願(翻訳、現地代理人とのやり取り)
- 拒絶理由通知への対応(意見書・補正書の作成)
- 特許調査(先行文献調査、侵害予防調査、無効資料調査)
- 鑑定(侵害鑑定、無効鑑定)
- 係争対応(訴訟や無効審判など)
- その他(営業や事務など)
国内特許出願(明細書の作成)
弁理士の仕事のうち、大きなボリュームを占めるのが、特許出願のための特許明細書の作成です。
クライアントから特許出願をしたい旨の依頼を受けて、出願の対象となる発明をヒアリングし、その内容を特許明細書に落とし込みます。
具体的には、以下のようなプロセスで進むことが多いです。
- STEP.1クライアントから出願依頼を受ける
- STEP.2クライアントとの打ち合わせクライアントと打ち合わせをして、特許出願したい発明の内容をヒアリングします。その際、クライアントがどのような権利を取りたいのかや将来的な実施形態、変形例などをうまく聞き出します。
- STEP.3明細書のドラフト作成クライアントとの打ち合わせの内容をもとに、明細書のドラフトを作成します。発明の本質を捉えつつ、将来的な実施形態なども踏まえてクレームや実施例を作成する必要があり、弁理士の腕の見せ所です。
- STEP.4クライアントによる原稿チェッククライアントに明細書を納品し、チェックを受けます。クライアントから修正の依頼があれば原稿を修正し、再度納品します
- STEP.5出願クライアントの確認が取れれば、特許庁に出願します。
なお、クライアントの側である程度しっかりした発明提案書を作って、打ち合わせを行わずに明細書のドラフト作成を進める場合もありますが、だいたいは上記のような流れで進みます。
外国特許出願(翻訳、現地代理人とのやり取り)
近年、企業による外国特許出願の件数が増えており、弁理士は企業と外国の特許事務所(現地代理人)との橋渡しを行います。
多くの場合は、すでに出願済みの日本出願をもとに、パリ優先権を主張した外国出願やPCT出願を行います。
その際、英語などの現地の言語に翻訳しますが、翻訳自体は、直接弁理士は行わず翻訳者が行うことが多いです。
弁理士の役割は、翻訳された出願原稿を確認し、クライアントに納品しても問題ないかを判断します。
また、クライアントからの要望を現地代理人に伝えたりします。
拒絶理由通知への対応(意見書・補正書の作成)
特許出願後に審査請求を行うと、特許庁で審査が行われますが、多くの場合は特許庁から拒絶理由通知(特許を認めることができない理由を記載した通知)を受けます。
この拒絶理由通知への対応を行うのも弁理士の主要な業務の一つです。
弁理士は、拒絶理由通知を分析して、特許の権利範囲を減縮する補正書や、審査官に対して拒絶理由には当たらない旨を反論するための意見書を作成します。
作成した意見書・補正書のドラフトは、クライアントによってチェックされ、最終的に特許庁に提出されます。
特許調査(先行文献調査、侵害予防調査、無効資料調査)
弁理士の仕事として、特許調査を行う場合があります。
特許調査には、以下のように大きく3つほど種類があります。
- 先行文献調査:特許出願を行う前に、すでに同じような内容の先行出願がないかを調査する
- 侵害予防調査:クライアントが事業を実施するにあたって、侵害する可能性がある他社特許が存在しないかを調査する
- 無効資料調査:他社の特許が無効である(新規性or進歩性が無い)ことを証明するための証拠資料(主に特許文献)を調査する
このうち、特許事務所の弁理士が行うのは、先行文献調査であることが多いです。
特許事務所の方針によっては、無効資料調査や侵害予防調査を扱う場合もあります。
鑑定(侵害鑑定、無効鑑定)
鑑定とは、特許に対する弁理士の見解のことです。
鑑定には、
- 侵害鑑定:クライアントの実施製品が対象特許を侵害するかどうかの見解を述べる
- 無効鑑定:対象特許が先行文献によって無効になるかどうかの見解を述べる
の大きく2種類があります。
鑑定は特許出願や拒絶理由通知対応に比べると少ないですが、弁理士としての法的知識や経験が大きくものを言う高度な仕事だと言えます。
係争対応(訴訟や無効審判など)
クライアントが他社から特許訴訟を起こされたりした場合に、そのサポートを行います。
先行文献をもとに、いかに対象特許の特許性を否定するロジックを組み立てられるかという、高度な仕事です。
基本的に訴訟は弁護士の領域ですが、特許訴訟となると、文系の出身者がほとんど弁護士では、特許に関する技術をうまく理解できない場合があり、そんなときは弁理士の出番となります。
特定侵害訴訟代理業務試験に合格し,所定の条件を満たした弁理士は、特定侵害訴訟の訴訟代理人となることができます。
また、特許訴訟においては、対象特許の有効性を争うために無効審判の請求を行うことが多く、無効審判は弁理士の専門領域です。
弁理士の仕事の中で上記のような訴訟に携わるケースはあまり多くはありませんが、弁理士の仕事の中でも最も華々しいと言えるでしょう。
その他(営業や事務など)
特許事務所のパートナー弁理士や、独立開業した弁理士は、営業で新規クライアントを開拓したり既存の顧客をつなぎ留めたりするのも重要な仕事。
定期的に顧客まわりをして、クライアントのニーズをヒアリングしたり、特許実務に関するセミナーを開催して見込み顧客を呼び込んだりします。
また、1人で特許事務所をやっている弁理士だと、事務業務(特許庁への手続き、期限管理、請求書の発行など)も自分でやる必要があります。
あと、特許以外にも、意匠や商標の出願業務も弁理士の仕事ですね。
通常は、理系の弁理士は特許、文系の弁理士は商標・意匠といういうように住み分けがされていますが、幅広く扱う弁理士もいます。
弁理士の仕事まとめ
というわけで、弁理士の仕事内容は、
- 国内特許出願(明細書の作成)
- 外国特許出願(翻訳、現地代理人とのやり取り)
- 拒絶理由通知への対応(意見書・補正書の作成)
- 特許調査(先行文献調査、侵害予防調査、無効資料調査)
- 鑑定(侵害鑑定、無効鑑定)
- 係争対応(訴訟や無効審判など)
- その他(営業や事務など)
があるよ、という話でした。
弁理士の仕事のイメージが湧くと幸いです!
ちなみに、弁理士の仕事を丁寧に解説した書籍として、「こんなにおもしろい 弁理士の仕事」があります。
弁理士の仕事の面白さや醍醐味が伝わってくる内容で、弁理士試験を勉強中の方のモチベーションアップにもおすすめなので、こちらも併せて参考にすると良いでしょう。
企業内弁理士の仕事は?
この記事では特許事務所における弁理士の仕事を紹介しましたが、弁理士の中に企業の知財部に勤務する人も一定数います。
企業知財部における弁理士の仕事内容については、下記の記事をご参照ください。
弁理士に限らず、知財部の仕事内容について書いていますが、内容的にはほぼ同じになります。
知財部の仕事内容は?|ある担当者の一日を紹介します〜弁理士を目指したいなら
弁理士を目指したいと思っている方は、以下の記事をどうぞ。
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