オープン&クローズ戦略

オープン&クローズ戦略 日本企業再興の条件
小川 紘一
翔泳社
売り上げランキング: 4,380

小川紘一先生の「オープン&クローズ戦略 日本企業再興の条件」をご紹介します。
(レビューを書くまでにだいぶ時間がかかってしまいました。。)

小川先生はよくセミナーで登壇されているので、講演を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?

本書は、小川先生が提唱するオープンクローズ戦略について様々な事例を挙げつつ、落ち目となっている日本のエレクトロニクス産業への復活の処方箋を提言するという意欲作であります!

 

何故日本製造業が勝てなくなったのか?

本書の前半では、日本の製造業が落ち目になった理由について詳細に述べられています。

1980年代頃までは、電化製品は、企業内でノウハウ化された職人的な製造技術や部品同士の高度なすり合わせ技術によって作られていました。
従って、日本の大手メーカーは、部品から完成品の組立までを自社内で完結させる、いわゆるフルセット垂直統合型の製造形態をとっていました。

ところが、1990年代頃から製品がよりソフトウェアリッチになり、日本の製造業、とりわけエレクトロニクス産業は大きな影響を受けることになります。
すなわち、電化製品にマイクロプロセッサとそれを制御するソフトウェアが組み込まれるようになり、社外から調達した技術モジュールを組み立てるだけで完成品が製造できるようになったのです。

さらに、製品のソフトウェアリッチ化によって技術が国境を超えて伝播・着床するようになりました。(本書では、製造業のグローバリゼーションと称しています。)

 

このような状況下で台頭してきたのが、韓国、台湾、中国などのアジア企業です。

そして、圧倒的なコスト競争力を持つアジア企業に、日本企業は太刀打ち出来なくなってしまったのです。

本書では、このような状況に陥ってしまった日本企業について以下のように評しています。

日本エレクトロニクス産業の窮状は、技術力やものづくりが弱体化したからでは決してない。グローバル市場の競争ルールの変化に、企業組織が適応できなかったというのが本質的な理由だったのである。

 

オープンクローズ戦略の実例

本書の中でも特に参考になるのが、第3章の「欧米企業に学ぶオープンクローズ戦略の事例」です。

製品のソフトウェアリッチ化による環境変化で痛手を受けたのは日本企業だけではなく、欧米企業も同様に窮地に追い込まれました。
しかし、いくつかの欧米企業では、知的財産をうまく活用した革新的な事業戦略(すなわちオープンクローズ戦略)によって成功を収めることができました。

以下、本書で紹介されているいくつかの事例について簡単にご紹介します。

シスコシステムズ

  • インターネット技術の中で、ルーターだけに特化。ルーター機能を具現化するルーター用OSを開発し、世界中に普及させた
  • ルーターの内部技術(ネットワークの利便性や信頼性を支える基幹技術)をクローズにする一方で、ルーターと他社技術をつなぐインターフェースをオープン化
  • ライセンス時に外部インターフェースの仕様を進化改版を禁じる契約

クアルコム

  • 無線基地局をエリクソンに、携帯端末事業を京セラにすべて売却。CDMA方式の基本技術が集中するカプセル化された半導体チップ事業に専念
    →完成品の事業をしないため、クロスライセンスを要求されない
  • 基地局関連技術、LTE、Wi−Fi技術を持つ企業を次々と買収→知財ポートフォリオの構築
  • 自前の半導体工場を持たないファブレス型だが、半導体チップの設計で世界有数の技術を持つ
  • 中国の企業に、フルターンキー型のチップや開発環境を提供し、大量普及させる

アップル

  • 製品デザイン、ユーザーインターフェース、これらを背後で支える統合型ソフトウェアプラットフォーム(iOS)をコア領域化
  • 専用部品だけでなく、部品の組立や取り付け領域にも知財を集中(例:コネクタの意匠、制御信号のプロトコル)
    →部品メーカーはアップルの許可無く部品を市場に流せない。仮に市場に流通してもiPhoneを模倣して組み立てると、アップルの知財に抵触することがすぐわかってしまうため、買い手がいない

上記以外にも様々な事例が紹介されています。
各事例の成功要因を一般化すると、オープンクローズ戦略とは、以下のようにまとめることができます。

  • 製品のコア領域と非コア領域との境界を設計する
  • コア領域は知財で固めクローズにする一方で、非コア領域はオープンにし、製品の普及を促す
  • コアと非コアの境界に特許を仕込むことで、協業企業をコントロールし、技術進化を自社優位に主導する

 

本書を読んだ感想

本書は、日本の製造業が落ち目になった要因、欧米企業のオープンクローズ戦略の成功事例、アジア企業が技術優位な日本企業を打ち負かすことができた要因、さらには人材育成への提言などなど、様々な要素がこれでもかとつめ込まれており、とにかく濃い本でした。

本書が提唱するオープンクローズ戦略は、製造業、特にキーパーツを製造する部品メーカー(インテル然り、クアルコム然り)にはきれいに当てはまります。

一方で、私が仕事で関わるITサービスやソフトウェアの分野などでは、なかなか当てはめることが難しいのではないかと思いました。

例えば、グーグルではどうでしょう?

グーグルはAndroid OSをオープン化して携帯メーカーに広く採用されている一方で、検索や広告に関する技術をコア領域としてクローズしており、一見オープンクローズ戦略に当てはまるように見えます。
しかしながら、その2つ(Androidと検索)には技術的な関連性が低く、本書で言うところの「伸びゆく手」が形成されているとは思えません。
(つまり、検索や広告はあくまでウェブブラウザ上で実現され、端末のOSには依存しない。)

従って、Googleは広告料収入を最大化するためにオープン戦略をうまく活用していると言えるかもしれませんが、本書で言うオープンクローズ戦略ではないと思うのです。

このように、オープンクローズ戦略は、成功している企業の全てに当てはまるわけではないし、むしろかなり限定的な状況においてのみ成立するものであると言えるのではないでしょうか。

とはいえ、オープンクローズ戦略が成功したときの効果は絶大なものがあり、知財戦略を考える際に、このような戦略を構築できるかどうか検討することは避けて通れません。

そんなわけで、本書は、特に知財戦略に関心がある人やメーカーで知財に関わっている人には必読の書です!

オープン&クローズ戦略 日本企業再興の条件
小川 紘一
翔泳社
売り上げランキング: 4,380

5 Comments

ryu

いつも楽しく拝見しています。

先日、小川先生の本の感想を書いてほしいとリクエストした者です。
感想ありがとうございました。非常に分かりやすく要約されていて、ありがたいです。自分も読んでみようと思います。

一方で、私が仕事で関わるITサービスやソフトウェアの分野などでは、なかなか当てはめることが難しいのではないかと思いました。
> 確かにそうかもしれませんね。私はこういう分野に疎く、イマイチ相場感がわかりません。ただ、こういう戦略を応用できないものかと素人ながら思っています。どういう風に応用するかはノーアイデアなのですが、umegreatさんのような切れ者であれば、必ず活かせるのではないかと思っています。

私も特許事務所から化学メーカーへ転職することになり、こういう戦略を頭の片隅に置きながら日々研鑽したいと思っています。

今後もブログを楽しみにしております。

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umegreat

Ryuさん

コメントありがとうございます!
一応1月前くらいに読み終わったのですが、レビューを書くまでにだいぶ時間がかかってしまいました。
ブログではほんの一部の観点しか紹介していないので、是非オリジナルを読んでみてください。

化学メーカーに転職されるんですね。
企業だと、戦略について意識する機会も多いと思うので、その意味では楽しくなると思います。
今後ともよろしくおねがいします!

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yy

小川先生の論文は一度読んだことがあります。
反省材料として、良いかと思います。
電気メーカはパーツからシステムまで、手広くビジネスを展開した点に、問題があったと理解しました。
システムも商売にして、その中間財まで、商売にした点が負けの原因となった。と理解しました。
一方グーグルの場合、Android OSの何を公開したのでしょうか?周辺機器と接続できるように切り口を公開したのか、Android OSのコアも公開したのか?
そのあたりはどうなんでしょうか?
やはり、オープンクローズの戦略は生きているのではないでしょうか?

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umegreat

yyさん

貴重なご意見ありがとうございます。

Googleについて少し調べてみたら、Googleは無条件でAndroid OSを配布していたわけではない、という旨の記事が見つかりました。
http://ascii.jp/elem/000/000/868/868570/
メーカーとの契約で、Androidの提供にあたっては、Googleのアプリケーションがデフォルトでインストールされていなければならない、というしばりがあったみたいですね。
OSを公開しつつも、契約で自社が有利になるようにする(検索による広告収入が上がるようにする)というのはオープンクローズ戦略と言えるかもしれません。

良い気付きになりました。

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yy

調べてもらってありがとう。
契約上の縛りをつけるのは、常套手段ですよね。
訴訟で契約の内容がオープンになったために、知りえた訳ですが、オープンになっていなかったら。
ビジネスの手法が沸かないことになりますね。
相手に対して優位に立つには、どうすべきか
種々のポイントで考える事例になりますね。
では。

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