ネットを徘徊していたら、たまたま弁理士の懲戒処分のニュースリリースを見つけました。
こういうやつです。
そう、弁理士でも懲戒処分を受けることが実際にあるんですね。
弁理士法の第32条には、弁理士の懲戒について規定があります。
(懲戒の種類)
第三十二条 弁理士がこの法律若しくはこの法律に基づく命令に違反したとき、又は弁理士たるにふさわしくない重大な非行があったときは、経済産業大臣は、次に掲げる処分をすることができる。
一 戒告
二 二年以内の業務の全部又は一部の停止
三 業務の禁止
つまり、弁理士が悪いことをしたら、怒られたり(戒告)、業務停止になったり、最悪業務禁止(弁理士登録が抹消される)になったりするわけですね。
では、懲戒の対象になる「悪いこと」って、具体的にどういうことでしょうか?
この記事では、弁理士が懲戒処分に至った理由を分析してみたいと思います。
本記事の内容
弁理士が懲戒処分を受けた事例
過去の懲戒処分の事例を調べたところ、懲戒処分に至った理由がいくつかに分類できますので、分類ごとに分けて事例を紹介します。
なお、実名を出すのもアレなのでイニシャルにしてますが、詳細にご興味がある方はリンクから現物をみてください。
クライアントから料金をもらっているに庁手続きせず権利消滅
まず、比較的数が多く、且つ重い処分が下されるのが、「クライアントから料金をもらっているに庁手続きをしなかった」系の理由です。
お金を払っているのに、手続きがされず権利消滅という、クライアントからしたら最悪のパターン。
これは悪徳弁理士と言われても仕方が無いでしょう・・・。
事例1
弁理士Yは、商標権の更新手続を受任し、権利者から更新料等を受領したにもかかわらず、特許庁に手続をせず、又は更新料を納付せず、権利を消滅させました。また、出願人から出願料や登録料等を受領したにもかかわらず、特許庁に納付せず、手続を却下させました。
⇒業務の禁止処分
事例2
弁理士Iは、依頼者から特許料等を受け取っていたにもかかわらず、特許庁に納付せず、依頼者に対し、特許権の消滅や二重払いといった不利益を与えました。
⇒業務の禁止処分
事例1、事例2については、商標と特許という違いはあれど、事件の構成としては似ています。
つまり、クライアントからお金をもらっているにもかかわらず、手続きをせずに、権利が消滅してしまった、という話ですね。
これらの事件では、いずれも処分としては最も重い「業務の禁止」を受けました。
事例3
弁理士Dは、複数の権利者から商標権の書換登録の申請を受任し、申請を行いましたが、委任状を提出せず、その提出を求める指令等の対応(補助者に対する指揮監督)を怠りました。その結果、当該商標権の次回更新ができなくなりました。
⇒1年の業務の一部停止処分
事例3においても、権利の消滅というクライアントにとって最悪の事態を招いた点では、事例1,2と共通しています。
しかし、事例3の場合、弁理士が被害者に対して返金、再出願、和解等を行い、被害の軽減を図った、という点が考慮され、1年の業務の一部停止処分となりました。
外国出願の費用を現地代理人に送らなかった
事例4
弁理士Mは、海外の商標登録出願手続等において、依頼者から預かった海外代理人へ支払うべき納付手数料及び代理人手数料等を送金せず、他の用途に流用し、支払いを放置しました。さらに、海外の商標更新登録手続において、海外代理人への進捗確認を怠ったために、存続期間満了に伴う商標権の消滅や更新登録手続の遅延を生じさせました。
⇒1年の業務の一部停止処分
外国出願の際に、日本の特許事務所が、現地代理人側で発生した費用をまとめてクライアントに請求することは一般的です。
しかし、本事例では、弁理士がクライアントから現地代理人の費用を徴収したのにも関わらず、その費用を現地代理人に支払いませんでした。
クライアントから預かったお金をちょろまかしたと言われても仕方がない状況・・・。
一応、依頼者の求めに応じて、依頼者へ預り金を返金し謝罪するなど、被害の軽減を図ったということで、1年の業務の一部停止処分となりました。
拒絶理由通知を受領したのに放置した
事例5
弁理士Tは、拒絶理由通知等を受領したにもかかわらず、依頼人への連絡を怠り、依頼人が同通知等に応答する機会を喪失させました。
⇒1年6月の業務の全部の停止処分
拒絶理由通知を受領したのに、出願人に連絡せず放置したというケース。
詳しい経緯は書かれてないですが、たぶん拒絶理由通知に応答しなかったので、出願の拒絶が確定しちゃったんですかね・・・?
予納台帳に残高がないのに放置した
事例6
弁理士Kは、自身の予納台帳に残高がないことを認識していたにもかかわらず、少なくとも平成23年以降、852件の手続書面において、当該予納台帳の番号を記載して手続を行ったため、特許庁は適正額を控除することができず、手続補正指令書等を発送するなど、追加的な業務が発生しました。
⇒戒告処分
事例7
弁理士Yは、自身の予納台帳に残高がないことを認識していたにもかかわらず、少なくとも平成25年以降、1,305件の手続書面において、当該予納台帳の番号を記載して手続を行ったため、特許庁は適正額を控除することができず、手続補正指令書等を発送するなど、追加的な業務が発生しました。弁理士Yは、日本弁理士会から、こうした行為を改善するように指導を受けていましたが、その後も同行為を繰り返しました。
⇒戒告処分
事例6,7は、予納台帳に残高がないのに放置したというケースです。
これも、意外とよくある懲戒理由でした。
予納台帳というのは、特許庁に支払うお金をプールするための口座のこと。
ここにお金が入っていないと、手続きをしても本来収められるべき手数料が特許庁に支払われないので、特許庁は困るわけですね。
ちなみに、「戒告」というのは簡単に言えば怒られることで、業務停止のような弁理士の業務を行う上での制限は受けません。
懲戒の中では最も軽い処分です。
でも、弁理士の名前が晒されちゃうので、イメージの低下は避けられないですね・・・。
拒絶理由通知書を偽造?!
上で紹介した事例はいずれもひどいですが、その上をいく悪徳弁理士の事例があったので紹介しておきます。
事例8
弁理士Kは、拒絶理由通知書及び特許査定書を偽造し、特許庁へ手続を行ったと偽り、代理人手数料等を架空請求し不当に受領しました。また、依頼者へ代理人手数料等を二重請求し不当に受領しました。
さらに、依頼された手続を放置し、また、特許庁へ必要な手数料を納付しなかったため、出願却下、権利消滅などの不利益を生じさせました。
⇒業務の禁止処分
なんと、わざわざ拒絶理由通知書や特許査定書を偽造して、手続き費用を架空請求するという恐るべし事例です。
さらに、依頼された手続きはせずに権利消滅もさせており、まさに数え役満状態・・・。
当然ながら、この弁理士は業務禁止になりました。
これは、キング・オブ・悪徳弁理士と言って良いのではないかと思います。
悪徳弁理士に引っかからないため注意点
では、上記のような事例をふまえつつ、クライアントの立場からして、どのように予防策を講じればよいのでしょうか?
まあ、上のようなひどい事例は極めて稀なケースなので、過度に心配する必要はないと思います。
とはいえ、クライアントとして注意すべきことを考えてみましょう。
依頼する前に信頼できる弁理士(事務所)か見定める
最低限、仕事を依頼する前には、実際に弁理士と会うようにしましょう。
実際に会えば、明らかにおかしいか人間かどうかの判断くらいはつくでしょう。
Webで弁理士の名前を検索して、変な事件が出てこないかを確認することも必須です。
より安全なのは、知り合いから良い弁理士を紹介してもらうことですかね。
特許事務所に事務担当がいるか?
上で挙げた懲戒処分は、大体は事務手続きに起因するもの。
特許などの手続きには期限が切られているので、故意ではないにしても、ミスで権利が消滅してしまうことが起こる可能性はあります。
個人事務所では弁理士が事務をやっているケースもありますが、専門の事務員がいる事務所の方が相対的には安心でしょう。
そういった意味では、名前の通った大手の特許事務所に安心感があります。
もちろん、諸々の点を考慮すると常に大手の特許事務所がベストであるとは言えないのですが、こと事務手続きの正確性という点ではリスクが低いといえますね。
手続きが完了しているかクライアントの方でも注意する
真っ当な事務所であれば、特許庁への手続き後に特許庁の受領書を送ってきます。
受領書が、実際に特許庁に手続きしましたという証明になるわけですね。
弁理士に手続きを指示して安心するのではなく、ちゃんと庁手続きが完了しているか確認するようにしましょう。
まとめ
というわけで、懲戒処分を受けた弁理士の事例をご紹介しました。
世の中には、信じられないくらい悪い弁理士がいるもんなんですね・・・。
繰り返しになりますが、上で紹介したようなひどい弁理士はごくごく稀なので、過度に心配する必要はないと思います。
ただ、クライアント側の意識を引き締めるという意味では、こういう事例もあることを記憶に留めておいても損はないかなと思います。