少し前に出た、稲森謙太郎氏の新刊についてご紹介します。
「すばらしき特殊特許の世界」です。
稲森氏は、過去にも「知られざる特殊特許の世界」や「女子大生マイの特許ファイル」で多くの特殊特許(発明の中身や発明者がちょっと変わった特許)を紹介しています。
本書では、そのコンセプトは踏襲しつつも、紹介する特殊特許はほとんど新ネタ!
過去に稲森氏の作品を読んだことがある方でも問題無く楽しめます。
新刊でも冴え渡る特殊特許
本書で紹介されている特殊特許としては、
- ダウンタウンの松ちゃん発明の目覚まし時計
- 秋元康発明のAKB恋愛ゲーム
- iPS騒動でマスコミからバッシングされた森口尚史発明の特許
- 東野圭吾発明のガリレオ風特許
などなど、非常に興味深そうな特許がずらり!
その中で個人的に好きなのは、「人と人の好き嫌いに関する生物科学的反応の規則性を応用した結婚情報提供システム」ですかね。
人は自分と形質の異なる人と惹かれ合うという普遍的統計的規則性(?)に着目し、それを応用した結婚情報システムとすることで 特許になった(!)発明なのですが、中身が秀逸です。
明細書によれば、上記の規則性を調査するために、発明者は約10年間にわたり全国の観光地やデパートなどで、夫婦を「失礼にならぬ程度に注意深く観察」したそうです。
観察においては、「下りエスカレーター前の観察調査が効果的」だったり、「デジカメを取りまくって帰宅してゆっくり観察したケースもよかった」とのこと(笑)
発明者の情熱が端々に現れており、胸に来るものがあります。
時事ネタもばっちり!
さらに、本書では、特殊特許を紹介するだけにとどまらず、
- 越後製菓 v. サトウ食品の切り餅特許事件
- アップル v. サムスンの特許闘争
- ニッスイの塩味冷凍枝豆特許を巡る騒動
など、話題の特許紛争事件の解説も入っており、時事ネタもバッチリ抑えることができます。
たんに面白い話だけでなく、ちゃんとためになる中身が入っているのも、稲森氏の著作のよいところ。
手汗握る発明者との攻防
しかしなんといっても特筆されるべきなのは、著者が本書で紹介されるほぼ全ての特許の発明者や出願人に対して取材を試みており、出願の経緯などを丹念に聞き出していることです!
特殊特許を出願するだけあってどの発明者も一癖も二癖もある強者(変人?)ですが、そこを果敢に攻めていく著者のバイタリティーには尊敬の念を抱かずにはいられません(笑)
そして、そんな発明者とのインタビュー部分は一触即発、手に汗を握るところであり、まさに本書の醍醐味と言える部分でしょう。
なお、今回は、特許査定を受けた発明をメインに紹介しているためか、稲森氏の過去の著作に比べると比較的まともな発明が多い印象を受けました。
もっとぶっ飛んだ発明を知りたいという方は、稲森氏の「知られざる特殊特許の世界」をお読み下さい(笑)
最後に、本書は特許の知識ゼロの人が読んでも十分楽しめますし、特許について興味を持つきっかけとしてすごく良いと思います。
また、実務に疲れた特許関係者が息抜きに読むのもおすすめでしょう。