知財に関する国家資格として、
- 弁理士
- 知的財産管理技能士
の2つが知られています。
特に知財関係の業務をしている方であれば、どちらかの資格(あるいは両方)について取得を検討したことがあるのではないでしょうか?
かくいう私も、過去に弁理士試験と知的財産管理技能士(2級と1級特許専門業務)の両方を受験したことがあります。(一応どちらの資格も持っています。)
その際に感じたのが、両者は似て非なるものだということでした。
この記事では、弁理士と知的財産管理技能士を様々な角度から比較しつつ、どちらの資格を目指したら良いのかについて書きたいと思います!
本記事の内容
弁理士と知的財産管理技能士の違い
弁理士と知的財産管理技能士は、いずれも知財に関する国家資格です。
しかし、両者の立ち位置は結構違います。
ここでは、主に
- 試験の性質・出題範囲
- 難易度
- 資格取得の意義
の3つの観点から、両者の違いを見てみたいと思います。
試験の性質・出題範囲
まず、試験の性質や出題範囲の面から、弁理士と知的財産管理技能士を比較します。
弁理士試験は、
弁理士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定する
(出典:弁理士法第9条)
ことを目的とした試験です。
試験範囲としては、弁理士が業務として扱う、
- 特許
- 実用新案
- 意匠
- 商標
- 著作権
- 不正競争防止法
- 知財に関する条約(パリ条約、特許協力条約、マドリッドプロトコル、TRIPS協定など)
に関する法律知識が問われます。
要は、弁理士試験は法律試験という性質を持っています。
一方、知的財産管理技能検定は、
知財マネジメントに関する技能の習得レベルを公的に証明するための国家試験
(出典:知的財産管理技能検定のオフィシャルサイト)
とあるように、知財の実務能力を検定する試験です。
試験範囲は級によって異なりますが、知的財産に関する法律に加えて、知財戦略や契約などの実務的知識が問われるのが特徴です。
このように、
- 弁理士試験: 知財に関する法律について問われる試験
- 知的財産管理技能検定: 知財の実務能力を検定する試験
という性質の違いがあります。
そのため、両者は試験において求められる知識が異なりますので、
弁理士試験の勉強がダイレクトに知財検定に役に立つわけではない(その逆も然り)
ということは頭に入れておきましょう。
難易度
続いて、弁理士と知的財産管理技能士の取得難易度を比較します。
弁理士試験は、短答・論文・口述の3つの試験にパスしなければいけません。
(さらに、論文試験は必須科目と選択科目の2つに分かれるので、実質4段階の試験ともいえます)
最終合格率は7%程度と、国家資格の中でも高難易度の試験です。
一方、知的財産管理技能士は1級から3級まであり、さらに1級は特許、商標、コンテンツの3つの専門業務に分かれています。
いずれの級においても、学科試験と実技試験の2つの試験を突破することが合格の条件になります。
合格率は、
- 3級(学科試験:約60%、実技試験:約70%)
- 2級(学科試験:約50%、実技試験:約50%)
- 1級特許専門業務(学科試験:約8%、実技試験:約90%)
のようになっており、2級、3級は比較的容易に取得できます。
一方、知的財産管理技能士1級の学科試験は合格率が一桁%と、弁理士に相当する難易度になっています。
ただ、実態面を考慮すると、弁理士の方が難しいと考えて良さそうです。
まず、弁理士試験では論文式試験という、原稿用紙に文章を論述する試験が課せられますが、知的財産管理技能検定にはこれに相当する試験はありません(マーク式の筆記試験と口頭試問のみ)。
さらに、弁理士試験の場合、多くの受験生は資格予備校に通って勉強し、平均的には4, 5年かけてようやく合格できる試験です。
一方で、知的財産管理技能士試験は独学で勉強して受験するのが普通であり、何年もかけてチャレンジする人は少ないように思います。
このように、合格率だけみると弁理士と知的財産管理技能士1級は同じくらいに見えますが、実態面を考慮すると弁理士のほうが取得が難しい資格であると言えます。
資格の意義
資格の意義を考える上で、その資格に独占業務があるかどうかが重要なポイントになります。
弁理士には、知財の手続きの代理という独占業務が存在します。
裏を返すと、弁理士じゃない人が知財手続きの代理業務をやると違法になるわけですね。
従って、弁理士登録をしてはじめて、特許事務所を独立開業する道が開けます。
これが弁理士資格の最大の意義になります。
一方で、知的財産管理技能士には、これといった独占業務は存在しません。
あくまで、知財スキルの検定試験という位置付けです。
もちろん、知的財産管理技能士も知財の実務能力を証明するという意義は一定あり、転職や昇進で考慮される可能性はあります。
ただ、弁理士に比べると資格の意義は限定的であると言えます。
弁理士と知的財産管理技能士は目指すならどっちが良い?
というわけで、弁理士と知的財産管理技能士の違いを見てきました。
では、「なにか知財関係の資格を取りたい!」と考えている人がいたとして、弁理士と知的財産管理技能士のどちらを目指せばよいのでしょうか?
これは一概にどちらが良いとは言えず、資格に何を期待するかによりけりですね。
弁理士資格がおすすめなケース
以下のような方は弁理士資格の方が向いています。
- 特許事務所で働きたい
- 資格を活かして独立したい
- とにかく箔がつく資格が欲しい
- ハードな試験勉強を厭わない
特許事務所で働くのであれば、やはり弁理士資格はあった方が良いでしょう。
もちろん、将来的に独立したい方は迷わず弁理士資格の方を目指しましょう。
しかし、弁理士試験の勉強は相当ハードになるため、目指すとなるとかなりの覚悟が求められる試験です。
従って弁理士は、将来的に独立したいとか、資格で箔を付けてキャリアアップしたいなど、上昇志向が強い人が目指すと良いでしょう。
知財管理技能士がおすすめなケース
一方で、以下のような方は知財管理技能士の方が向いています。
- (主に知財実務の経験が浅い人が)自分の知財スキルを確認したい
- 企業知財で役立つ実践的な知財実務のスキルを身に着けたい
- 手軽に知財の資格にチャレンジしたい
知的財産管理技能士は、弁理士のように独立できるわけではなく、自己研鑽的な意味あいが強い資格です。
その分、入門レベルの3級からエキスパートレベルである1級まで、かなり間口が広い資格であることが特徴です。
なので、知財部に入ったばかりの方や、研究者・エンジニアが自分の知財スキルがどの程度かを知るには適しています。
また、「弁理士を目指すまでの覚悟はないけど、なにか知財系の資格を取っておきたい」という人も手軽にチャレンジできる資格です。
また、知的財産管理技検定は弁理士試験よりも実際の実務にフォーカスしています。
特に、企業知財で役立つ知識がある程度網羅できます。
そのため、試験勉強の過程で、実務に直結する知識を身に着けたいという人にも向いていますね。
まとめ
というわけで、弁理士と知的財産管理技能士の違いをまとめると以下のようなかんじです。
- 弁理士は法律にフォーカスした試験
- 知的財産管理技検定は知財の実務能力にフォーカスした試験
- 弁理士のほうが、知的財産管理技能士1級よりも難易度が高い
- 弁理士は、独占業務として知財手続きの代理ができ、独立できる
- 知的財産管理技能士は、独占業務は無く、自己啓発的な側面が強い
両者は取得までのハードルや資格から得られる効果が異なります。
弁理士と知的財産管理技能士で自分に合っている資格はどちらなのか、この記事がご参考なれば幸いです!
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