「インビジブル・エッジ」の感想

インビジブルエッジ

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文藝春秋
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ちょっと前に読んだ「インビジブル・エッジ」を紹介します。
本格的なレビューを書こうと思っていたら、時間が経ってしまいました。

本書の内容はとにかく濃い!

読み始めてすぐに、なんでもっと早く読んでおかなかったんだろうと後悔したくらいです。

本書で書かれている内容は多岐にわたっており、得られるものが非常に多いです。
私としては、特に以下のことを学ぶことができると思います。

  • 特許の歴史・過去の特許訴訟事例
  • 特許による経済への貢献
  • 豊富な知財戦略の事例
  • 各国の知的財産に対する政策
  • 先端的な知財ビジネス

その中でも自分として特に参考になった知財戦略関係の話についてご紹介します。

 

サメ型企業

知財戦略というよりも企業のあり方についてですが、本書で紹介されているサメ型企業という類型が興味深かったです。

サメ型企業とは、R&Dと知財取得に特化した企業であり、製品の製造・販売は行わず、技術供与や知財ライセンスによって収益を得るという企業の類型です。
本書では、クアルコムなどがサメ型企業の例として紹介されています。

サメ型企業は、高い知財力を有する一方で、製造・販売を行わないため他社から刺されるリスクが低い。
そのため、他社に対する知財のパワーバランスが、サメ型企業に圧倒的に有利になります。

サメ型企業は企業のあり方として非常に面白いと思いました。

このような企業形態は知財によって技術の保護が担保されているからこそ可能となるものなので、そういう意味で、まさに知財活用の最終型と言えるのではないかと思います。

 

知財戦略の3つの類型

本書では、知財戦略の類型として3つの戦略を挙げています。

  1. コントロール戦略
  2. コラボレーション戦略
  3. 単純化戦略

 

企業の知財戦略は大体この3つのパターンのどれかに大別することができると知り、自分の中でだいぶ考えが整理されました。

それぞれの詳細は以下の様です。

コントロール戦略

高収益の泉源となる技術について、特許権利化を行い、その技術や事業を独占するという戦略です。
特許戦略といえば、真っ先にこのやり方が思い浮かぶのではないでしょうか?

ただ、コントロール戦略は知財戦略の王道ではあるのですが、自前主義に陥って研究開発のスピードが遅れたり、独自技術化して業界の潮流から外れてしまったりと、これだけでは問題があります。

コラボレーション戦略

他者と提携して技術開発を行い、知的財産権を共有するあるいはオープンにするというやり方です。
いわゆるオープンイノベーションがこれに当たるでしょう。
さらに本書によれば、実際に共同研修・開発をせずに知財だけを共有にする、クロスライセンスやパテントプールもこの戦略に含まれます。

コラボレーション戦略によって、技術開発のスピードを早める、自社では出てこないようなアイデアが得られる、不要な係争を回避できるなどの効果があります。
特に、ITの分野ではオープンソース化によって社外のプログラマーを呼び込むマス・コラボレーションが盛んに行われています。

一方で、他企業とのコラボレーションがうまくいかなければ、妥協の産物でイマイチなものが出来上がってしまったり、開発が頓挫したり、知財の所有を巡ってトラブルが発生したりと様々なリスクも有ります。

単純化戦略

プロダクトのアーキテクチャを明確にすることで、コントロール戦略とコラボレーション戦略を適切に切り分けるという戦略です。
いわゆるオープンクローズ戦略に親しい概念ですが、本書で述べられる単純化戦略はプロダクトデザインの段階から無駄な機能を省いてアーキテクチャの複雑化を回避する、ということを意識する点が異なります。

この戦略はある意味理想的ではあるのですが、どこをオープンにしてどこをクローズにするかを間違えると企業は散々な目にあうことになります。
本書では、単純化戦略に失敗した例として、IBMのパソコン事業の凋落を挙げています。

 

ファイスブックの知財戦略

本書の最後の章に、上記の知財戦略をWEBサービスにうまく落とし込んだ事例として、フェイスブック(Facebook)の知財戦略が紹介されています。

ザッカーバーグ氏は、かなり初期の段階から知財の保護を意識しており、サービスのコア技術についてグローバル展開を見込んでPCT出願を行ったとのことです。

ただここまでは、ザッカーバーグ氏の先見性を除けば知財戦略としては一般的な話ではあります。
個人的には、フェイスブックの知財戦略として最も参考になるのはコラボレーション戦略であると感じました。

フェイスブックは、プログラミングインターフェースを公開し、多くのプログラマーを惹きつけることで、結果として多種多様なアプリケーションをユーザに提供することを可能にしました。

また、マイクロソフトと提携することで、フェイスブックはマイクロソフトの特許ポートフォリオにアクセスすることを可能にしています。

フェイスブックといえば、イケイケなベンチャー企業というイメージしか持っていませんでしたが、初期の段階から知財の取り組みをやっていたというのは意外な発見でした。

特に、ITベンチャーが知財を活用した事例というのはそれほど多くないので、フェイスブックは貴重なモデルケースになると思います。

最後に

以上紹介したのは本書のほんの一部の観点に過ぎず、知財に関して本当に様々な観点を提供してくれる本です。

特許戦略を扱った書籍の中では間違いなく名著だと思います。

ちなみに、知財戦略の名著としては丸島儀一氏の「知的財産戦略」がありますが、
知的財産戦略が企業の知財担当者の視点から書かれているのに対して、本書は知財の世界を外側からより客観的、分析的に書いているところに違いがあります。
また、本書は、事業を助けるための知財の活用という以外にも、(丸島氏が好きではない)知財を使った新ビジネスについても書かれています。

そんなわけで、知財に関わる仕事をしている方には、真っ先に本書をおすすめしたいです。

是非本書を手に取って知財の見識をさらに深めてみてはいかがでしょうか?!

 

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