就職活動中の学生の方からの質問を頂いたので、ご紹介したいと思います!
質問頂いた学生の方は、新卒時の就職活動において、大手企業の知財部を受けることを検討しているとのことでした。
そのため、大手企業の知財部の仕事内容や内情、さらには私自身のキャリア(新卒で知財部に入り、その後転職)についても興味を持って頂いているようでした。
差し支えない範囲でご紹介したいと思います!
大手企業(メーカー)の知財部について
私の前職は大手メーカーの知財部だったのですが、その様子について質問されました。
ご質問とそれに対する私の回答は以下のようです。
Q:大手企業の知財部の仕事は分業的なんですか?
A:分業的だと思いますね
何をもって分業とするかによると思うんですが、少なくとも知財担当者が数十人の会社と比べたら分業的じゃないですかね?
大企業ともなると、知財部門の人数が数百人という規模になるので、どうしても仕事が分業的になります。
例えば、特許権利化は技術分野ごとに部門が分かれており、さらに契約、訴訟、ライセンス交渉なども業務ごとに部門が分かれている、といった場合が多いと思います。
なお、同じ会社の知財部門内でも、担当する事業分野(製品分野)によって仕事の幅が変わってくることがあります。
例えば、特許権利化を担当する場合でも、製品寄りの知財を担当する場合は、競合やNPEなどから訴えられたりすることも多いので、特許権利化のほかに訴訟や警告状対応の仕事も発生する可能性があります。
一方、基礎研究系の知財を扱う場合は、その技術が実際の製品に適用されるまでに長い時間がかかるため、10年、20年先を見据えてじっくり特許権利化をやっていくことになるでしょう。
Q:知財部なのに地方に飛ばされることがあるんですか?
A:地方の研究・開発拠点に知財部がある会社だと、地方転勤もあります
これは、私が過去に地方に飛ばされたことがある、というプロフィールを知ってのご質問でした(笑)
会社によりけりだと思うのですが、研究・開発拠点に知財部門を併設している会社であれば、地方転勤はありえます。
というのも、研究・開発拠点は地方にある場合が圧倒的に多いので、そこに知財もついていくとなると必然的に地方に行くことになるわけです。
Q:配属希望等がとられなかったのでしょうか?
A:配属希望は取られるけど、全員の希望が叶うことはないでしょうね
これも、私が過去に(嫌々ながら)地方に飛ばされたことがある、というプロフィールを知ってのご質問です(笑)
おそらく多くの企業では、新入社員に対して配属希望を取ると思います。
しかし、実際の配属先が自分の希望通りになるかは別問題でしょう。
やはり、会社として、一人ひとりの希望に沿うような配属をすることが困難ですからね。
Q:メーカーの知財部にいる人は、転職するなどアグレッシブにキャリアアップを目指す人が多いのでしょうか?
A:そういう人の割合は意外と少ないですね
ご質問頂いた方は、大手企業(メーカー)の知財部で数年間キャリアを積んで、その間に弁理士の資格を取り、その後特許事務所や他企業に移るというキャリアプランを考えていました。
では、知財部にはそういう考えの人が多いのか?と問われると、そんなに多くはないという回答になりますかね。。
もちろん中にはそういう人もいることはいますが、大多数の人は転職までしてキャリアアップしようとは考えておらず、今いる会社で地道にがんばる方向だと思います。
「知財部で数年間やってキャリアアップのために転職」みたいな価値観は、ある程度年のいった人からすると、受け入れ難い価値観なんじゃないですかね。
では、何故アグレッシブな考えの人が少ないかというと、やはり大手企業だと雇用が安定してるしそれなりのステータスがあるので、あえて転職して外に出るモチベーションが湧きにくいからだと思います。
そして、たまにいるアグレッシブな人はすぐ外の世界に旅立つので、会社にはあまり残っていないという(笑)
Q:知財部で辞める人ってどれくらいいるんですか?
A:開発部門とかに比べると少しだけ離職率が高いかも?
会社の状況等にもよるので、一般的なことは言えませんが、辞める人の数は年間で全体数の1〜2%くらいじゃないですかね?
いずれにしても割合としては少ないと思いますが、開発などの他の部門と比較すれば、知財部の離職率は少し高いですかね。
(あくまで私の感覚での話ですが。。)
なお、知財部で辞める人の中では、やはり弁理士資格を持っている人の辞める割合が高いと思います。
弁理士資格があると転職に有利ですし、特に特許事務所では高く評価されます。
そのため、本人が転職する気になれば、比較的容易に転職先が決まるためでしょう。
実際、私の周りでも企業知財部の在職中に弁理士資格を取って、その後特許事務所に転職した方が相当数います。
企業選びや知財キャリアなどについて
Q:知財の仕事で職場環境の良い企業、組織はどこでしょうか?
A:基本大企業なんで、あからさまなブラック企業は無いと思いますよ
自分が勤めていた会社以外だと、正直他社のことはよくわかりませんね・・・。
ただ、知財部のある企業は、基本的に規模が大きくまっとうな企業なので、労務管理がしっかりしています。
なので、あからさまなブラック企業というのは聞いたことがないです。
特許事務所は所長のキャラクターによって、ブラックなところもあるみたいです。
そのあたりは、特許事務所の弁理士がよく知っているので、知り合いを作って聞いてみるのもよいでしょう。
TLOは、発明を売り込むノルマみたいなのが課されると聞いたことがあり、人によってはそれがしんどいかもしれません。
Q:弁理士などの資格習得をサポートしてくれる企業、組織はどこでしょうか?
A:企業だと、基本はサポートが無いと思っておいたほうが良いです
特許事務所は、弁理士試験に理解があるところが多く、基本的にはサポートしてくれます。
企業では、某H社が弁理士資格の修得を奨励しているらしいです。(今はどうかわかりませんが)
ただ、基本的には、企業が資格修得をサポートすることは、無いと思った方が良いです。
Q:弁理士は儲からないという話は本当でしょうか?
A:弁理士に限らず、資格があるだけで儲かるものは無いと思います
今の時代、弁理士に限らず、ほぼ全ての資格は、取ったからと言って儲かるものではないです。
精々、月々の弁理士会費を払ってもらえて、それに数万程度の手当てが付けば御の字でしょう。
加えて、近年の不況で、企業が特許出願の件数を絞ったり、事務所から仕事を引き上げたりしていると聞きます。
なので、力の無い事務所や規模の小さい事務所はやばい状態になっているそうです。
Q:弁理士で儲けるには、どういうキャリアパスがよいのでしょうか?
A:やっぱ、特許事務所で所長かパートナーになるのが良いかなと
これは、自分も知りたいくらいなんですが(笑)
一応私の考えを書きます。
あくまでも弁理士として儲けたいのであれば、特許事務所のトップ(所長)になるのが一番です。
大手メーカーなどの顧客をがっちり掴み、あとは配下の弁理士や特許技術者等にせっせと仕事をさせるのです。
そのための最も現実的なプランとしては、(新卒又は知財部経由で)中堅又は大手の特許事務所に入り、そこでパートナーまで上り詰めることです。
自分で事務所を立ち上げるという手もありますが、上で述べたような状況ですので、よっぽどしっかり客を掴んでから独立しないと厳しいと思います。
Q:新卒採用に研究職と知財職のどちらで応募するか迷っています
A:まずは、いけるところまで両方の選考を進めたらいいのでは?
ご質問頂いた方は、知財職に興味がある一方で、元々は研究職を志望しており、どちらにするか迷っておられました。
で、私の意見としては、別に片方に絞らなくても、いけるところまで両方進めたらいいんじゃないですかね?
内定もらってからどちらにするか考えれば良いように思えます。
ただ、企業によっては応募の段階で、研究(開発)職にするのか、知財職にするのかを選択しなければならないところがあり、その場合悩みますね。
知財職として募集がある企業は知財職で受けて、それ以外は研究職で応募する、とかでしょうか。
ところで、研究職ではなく知財に行きたいという理由は何でしょう?
研究よりも知財をやりたい!という強い思いがあるんなら、新卒で知財を狙うのも良いと思いますが、そうでないならあえて知財部を目指す必要はないかもしれません。
基本的に、一旦知財に入ってしまうと、そこから研究職に移れるケースは非常にレアです。
一方で、研究職・開発職から知財に移るケースはままあります。
従って、少しでも研究職に未練があるなら、まずはそちらに行った方が良いかもしれません。
私自身のキャリアについて
質問をくれた就活生の方は、私自身のキャリア(新卒で知財部に入り、その後転職)についても興味を持って頂いているようでした。
以下、質問とその回答が私個人の話に寄ったものになっておりますが、予めご了承ください。
「なるほど、こう来るか」と思わされるような質問ばかりで、返答を考えるのがおもしろかったですね。
また、学生の方のキャリアを真剣に考える姿勢が伝わってきて、ハッとさせられました。
Q:今後一生知財の分野で食べていくつもりですか?
A:今の所そのつもりです
これは、私が大手企業の知財部から転職する際に、知財職かそれ以外にするかで悩んでいたが、結局知財職を選択したことを受けてのご質問でした。
さて、自分は一生知財で食っていくのか?
正直、将来のことはわからないので、何とも言えないですね・・。
ただ、新卒から知財一本で、最早それなりの年齢になっていますので、今更全く畑違いの仕事を1から始めるのは厳しいということもあり、一生知財で食っていくことになる可能性が高いですかね。
Q:弁理士資格を活かして弁理士事務所に行く事は考えなかったのでしょうか?
A:特許事務所はあんまり考えなかったです
新卒で就活をした時も、転職活動をしていた時も、正直、特許事務所に行くことはあまり考えませんでしたね。
新卒の時は、とりあえず大手メーカーに行った方がつぶしが効くだろうという考えでした。
転職の時は、ある程度知財分野で社会人経験を積んだ上で、特許事務所の仕事はそれほど自分に向いてないなと考えました。
特許事務所で、明細書作成などの出願、権利化手続きに特化してやるより、企業で知財に関する仕事を幅広くやった方が面白そうだと思いました。
Q:学生時代の研究分野での就職は考えていなかったのでしょうか?
A:当初は研究職志望でしたが、全落ちしました(笑)
これは、私が学生時代に有機化学合成を専攻していたのに、電機メーカー、IT企業と技術分野として畑違いの分野に進んだことを受けたご質問です。
もちろん、学生で就活をやっているときは、自分の専攻が活かせるような企業への就職を考えました。
実際、新卒の時は製薬メーカーや化学メーカーなどの研究職を受けたりしました。(そして、全落ちしました・・・(涙))
ただ、その当時も、研究職を経て最終的には知財の仕事がやりたいと思っており、だったら最初から知財部に入ればいいじゃん!と思い至ったのです。
その後、電機メーカーの知財を受け始め、そのうちの1社から知財専門職として内定をもらいました。
ちなみに、前職では、材料分野の特許権利化をやっていたので、その時は大学の時の専門分野はそれなりに活かされていました。
(今は全然畑違いの技術分野を扱ってますが・・)
Q:今からもう一度大学生に戻れるとして、もう一度知財の仕事を志望しますか?
A:知財の仕事は自分に向いていると思うけど、ちょっと迷いますね
面白い質問ですね(笑)
あまり考えたことがなかったですが、個人的には知財の仕事は悪くないと思っています。
頭を使う仕事だし、専門職なのでつぶしが効くし、開発などに比べればそこまでキツくないし。
でも、もしも大学に戻れるんなら、もう一度知財の仕事をするかどうかちょっと迷いますね。
起業したり海外で就職したりっていうのに憧れがあるので、そういうのを目指したい気もします。
最後に
というわけで、学生の方に頂いたご質問と私の回答についてご紹介しました!
知財部がどういうところかちゃんと情報収集されているようで、知財部に入った後のことまで考えて質問されているのがすごいなぁと思いましたね。
自分が新卒の就活をしていたときは、「なんか知財に興味があるんでどこかの知財部に引っかかればいいなぁ」くらにしか考えていなかったので、えらい違いです(笑)
なお、就職や転職活動で、知財の仕事に興味を持たれている方は、下記の記事を参考にしてみてください!
新卒で知財部に入るには?
この記事を読んで下さった方は、おそらく就職活動等で企業の知財部を検討されているのではないかと思います。
しかし、知財の仕事はマイナー且つ中途で入ってくる人の割合が高いので、新卒採用についての情報が特に不足しているように思います。
以下の記事で、私の体験談も踏まえつつ、新卒で知財部に入るために必要な情報をまとめていますので、ぜひご参考に!
知財部に新卒で入れる企業はどこ?就活生が知っておくべきこと知財部の仕事
学生の方には知財の仕事ってなかなか馴染みがないと思います。
しかし、知財職を志望するのであれば、どんな仕事なのか具体的なイメージを持っておきたいところ。
下記の記事で、企業知財部の仕事内容について解説しているので、参考にしてみてください。
私が大企業の知財部員だったころの一日のスケジュールも公開しています(笑)
知財部の仕事内容は?|ある担当者の一日を紹介します〜
あなたは知財の仕事に向いている?
知財の仕事はわりと独特で、それなりに向き不向きがあると思います。
どんな人が知財部員に向いているのかについては、下記の記事を参照してみてください!
知財部に向いている人は?成果を出すための4つの資質
知財部の面接
知財部の採用面接では、面接官からどんな質問をされるのでしょうか?
新卒採用の面接だと、基本的には、研究・開発職の新卒採用と似たようなかんじで進むのですが、違いもあります。
詳しくは、下記の記事で書いたので参考にしてみてください!
知的財産部への志望動機は面接に必須!|具体的な文案もご紹介